木のうつわに漆 大石祐子さん

 


漆の花 大石さん家裏にある漆の木

 

木漆作家の大石祐子さんのうつわに出会ったのは八重洲にある画廊でした。
芸術的にまで磨きこまれた拭きうるしの数々の作品のなかに、ひっそりと息をするように素朴な風合いで飾られていた木地留塗りの椀に目を惹かれました。
椀は柔らかく温かな印象で扱う手にも優しく、持ち帰って早速使ってみたくなるようなうつわでした。

 


高台内部 緩くカーブしているので水垢がつきにくい

 

実際に使用してみるとひとつひとつに表情があり愛着がどんどん湧いてきます。
また、水捌けの良さを考慮した高台内部の削りは家事をする者でなければわからない気付きがあり、機能的であるうえにそれを感じさせない美しさを持っています。

 

 

大石祐子さんは、同じく木漆作家の任性珍(イムソンジン)さんとご夫婦で群馬県安中市に工房世二を立ち上げ木工ろくろによる木地加工から漆塗りまでほとんどの工程を一貫して制作されています。
庭は菜園と果樹、そして鶏があちらこちらで自由に歩き回り、ほぼ自給自足に近い暮らしの印象。伺った日はさっそく庭から採取した野菜でトントントンと手際よく、お昼をご馳走になってしまいました。

 


庭で元気に歩きまわる

 

家は、養蚕農家だった古民家を少しずつ手直ししながら何年もかけて今の生活にされたそうです。大工さんでも断られるようなやっかいな修繕を仕事の合間に入れていくのは相当な労力だったのではと察します。けれどもそのひと手間ひと手間は生活に深く根ざし、地に一番近いところでしっかりと生きている力が強く伝わってきました。
そんな生活をとても楽しいとおっしゃる大石さん。
大石さんの作られるうつわに勢いがありとても身近に感じられるのは日々の生活の姿勢が深くうつわに浸透しているからではないかと思いました。

 

 

大石さんの言葉に

「私は“漆器”ではなく木の器に漆を塗っていると思っています。木のぬくもりとやさしさを残しながら、木目を生かし器として使えるように、漆を拭きうるしという塗り方で塗っています。なぜ漆を塗るかっていうとそれは水洗いして使えるように、そして木の良さを引き出してくれるから、そして何より安全な塗料だからということです。」(工房世二HPより)

 


木工ろくろによる木地加工

 

その言葉のとおり、木地つくりからとても丁寧に作業されている工程を見せていただきました。

木地つくりの工程はまた追ってご紹介します。